~小平市議会の2017年9月都市基盤整備調査特別委員会の報告から考える~
小川駅西口の再開発について、平成29年4月に公開された見直しされた小平市都市計画マスタープラン第4部地域別構想P64に、『小川駅西口地区は、平成26年2月に市民、事業者、市によって策定された「小川駅周辺地区まちづくりビジョン」に基づいて、西地域の新たな拠点の形成に向けたまちづくりを推進しつつ、この大きな動きを契機として、一体のまちの更新を図ります』と記載された。H29年9月20日に開催された小平市議会の都市基盤整備調査特別委員会での報告をもとに現状をまとめた。
小川駅周辺の再開発については、都市計画マスタープランの改定の際の平成26年及び27年に行われた無作為抽出アンケートの自由記述の意見には、「小川駅周辺の整備、商業施設や病院がないことへの不安、駅前を活気づけて欲しい」などの意見が上げられており、市民から要望があることはわかっているが、要望をひとつひとつ読むと、住民の声は様々であり、市民の意見を取り入れながら最適解みつけ迅速にすすめることは大変難しい。
小川駅西口の再開発は、都市再開発法に基づいて第一種市街地再開発事業として、土地所有者14名(土地所有者の70%)、借地権者15名(借地権者の83.3%)、合計29名の地権者からなる小川駅西口地区市街地再開発準備組合による組合施行により検討が進められている。事業協力者にはコンサルタントとして株式会社INA新建築研究所と、デバロッパーとして、旭化成不動産レジデンス株式会社とが参加している。組合施行による再開発は、地権者、地方公共団体(小平市)、事業協力者の3者が協力して行うが、地方公共団体の役割は、事業全体の推進を指導、監督しながら事業費の一部について国・東京都とともに補助金による支援を行うことになっていると同委員会で説明されている。
計画の概要
同委員会で紹介された計画は、以下のような計画となっている。
都市計画素案イメージ
市街地再開発事業エリア詳細
断面構成イメージ
小川駅西口南側には、西側から接続する都市計画道路小平3・4・12と接続される4,100m2の交通広場(ロータリー)、駅前には住宅、非物流サービス、商業からなる高層の建物が出来る。駅に近い東側に5階から28階まで220戸の高層住宅部で、低層部は西側に拡がっており、1-2階が商業施設、3-5階が非物販サービス、地下は居住者・施設利用者用の駐輪場(564台分)・機械室)、南側には、居住者・施設利用者用の3階建ての駐車場、その西側には約1,000m2の市民広場が出来るというのが計画の概要となっている。
次に事業の収支を見ていきたい。
事業収支
総費用は、約183億円、そのうち81.9%の約150億円が建設工事費となっており、その他が設計費、土地整備費、補償費、事務費となっている。収入は、国・都・市の補助金が約46億円、公共施設管理者負担金約29億円、保留床処分金約108億円となっている。補助金の内訳は、国が1/2の23億円、都が1/4の11.5億円、市も1/4の約11.5億円となっており、公共施設管理者負担金の公共施設とは、都市計画道路3・4・12号線と交通広場の負担であるが、約29億円のうち国が約11億円、都が約2億円、小平市が約16億円となっている。保留床とは、住宅220戸(1世帯あたり3LDK、約75m2で、販売価格は3千万円後半から4千万円中くらいと説明されている)と、非物販サービスを販売することによって108億円の資金を得ることで事業費を確保しようとしている。なお、108億円の内訳としては、国の補助の防災・省エネ交付金が約5億円、住宅が約65億円、非物販サービスが約38億円という説明がされた。
小平市の負担する費用は、補助金の11.5億円と、都市計画道路3・4・12号線と交通広場の負担の16億円を加えた合計約27.5億円となっている。さらに非物販サービスの保留床を小平市が購入することになるはずで、その費用が27.5億円に加わることになる。
目標スケジュールとしては、来年H30年度が都市計画決定、H31年度に2/3以上の地権者の合意を得て組合の設立、H32年度が着工、H34年度に竣工となっている。
事業スケジュールの目標
再開発について、小平市による委員会でのメリット・デメリットの説明は、以下のように説明している。
メリットについて
- 道路事情が悪くオープンスペースがない防災面の課題が解決出来る。
- 商業機能の充実、今ある商店の方も引き続き営業が出来て活性化が期待できる。(小平市は乗降者数が合計5,500増加すると予測:住宅1,100人、公益施設利用者700人、商業施設利用者3,700人)
- 道路、広場、空き地、空地など公共施設の整備
- 市内外からの転入などによる人口増加
- (具体的には進んでいないが)バスの誘致の可能性もある。
デメリットについて
- 権利者の合意形成が必要で事業期間が非常に長くなる。
- 社会経済状況に左右をされやすい。
デメリットが組合施行による再開発のデメリットの一般論となっており、本当は事業のデメリットもあるはずであるが、小平市の説明は本事業が行われることによるデメリットではない。これは役所の文化で有り、事業説明では、常に事業のメリットだけで提示されデメリットが説明されないのが普通である。
市議の質問と行政の回答から読み取れる課題やデメリットは以下が上げられる。
- 小川駅を利用する市民のための駐輪場の場所が確保されていない。
再開発エリアには、現在、公共・民間駐輪場975台分があると同委員会で報告されている。さらに西口のセブンイレブンの北側の空き地も有料駐輪場になった。再開発によってこれらが消失してしまうが、代替となる駐輪場の場所が確保されていない。高層タワービルの地下に予定されている駐輪場565台分はあくまでも高層タワーの住民と、低層の施設利用者のためのものであり、駅利用者は利用出来ない。市は、別途確保すると回答しているが、どのように考えているかの説明がない。再開発エリア外の周辺エリアに駅利用者用の駐輪場がつくられることになると場所の確保が難しくなるだろう。なお、2009年10月に完成した東村山西口再開発では、駅前広場の地下に定期利用1,095台、一時利用500台の駐輪場が確保されている。
- 中宿商店街への影響
小川駅西口の高層タワービルの低層部に集約された形でさまざまな商業施設が入ると小川駅西口の北側約300mにある中宿商店街からお客さんが奪われて衰退することが懸念される。同委員会の市議や行政側の意見からは再開発にともない、中宿商店街まで含めたエリアが賑わい活性化することが期待しているような発言もあるが、場所が離れていることもありお客さんを奪われると考えるのが普通だろう。
- 小川駅の2階と高層タワービルの低層部の2階がつながる目処がついていない。
高層タワービルの低層部の2階と小川駅を2Fでつなぐ東西自由通路については行政側は「可能性はある」という表現をしている。小川駅と高層タワービルの低層部を2Fで直結しないと、2Fを利用したい乗降者は小川駅の階段をおりてから、高層タワービルに入らないと行けない。飲食店など商業施設への動線を考えると2Fが直結するとしないとでは、その差は大きい。
- 高層タワービルの低層部の非物版サービスの3Fから5Fの公共施設が具体的になっていない。
H28年12月の小平市議会では、準備組合側は、小平市に対して西部地域センターの機能の移転を提案していることが明らかにされた。同委員会での行政の報告では、「都市計画決定するまでには、ある程度公共施設が入るかどうかの判断が出る」「床を獲得できる方向も含めて検討していきたい」という回答で、公共施設として保留床を買うか否かすらも明言しなかった。なお、小平市公共施設マネジメント基本方針では延べ床面積の20%削減という方針が出ているので、保留床を購入するのであれば別の公共施設を売却するなり、購入した保留床に現状別の所にある公共施設を移転させるするなどが検討されることになるだろう。
なお東村山市では、高層タワービルの2階の約半分と、3階のすべてのフロアーを東村山市が約10億円で購入しており、サンパルネと呼ばれる公益施設として活用されている。2Fにあるサンパルネなど市民交流施設、行政窓口、会議室、イベントホール、観光案内、3Fには、健康増進施設(ジムとスタジオ)とリラクゼーションスペース(飲食ができるスペースやマッサージなど)が外部委託にて運営されている。委託費用を東村山市は毎年負担しているが、その件についてはいずれブログで書きたい。
建設費高騰で延期になったH26年度の計画とH29年現計画の比較
小川駅西口の再開発の検討は、H4年に再開発協議会がつくられて、H19年には、再開発準備組合が設立されている。協議会設立から、既に25年、準備組合設立からも既に10年が経過している。H24年には、小平市の支援のもとで、小平駅前周辺の自治会、商店街、ブリジストン、再開発準備組合の12の団体で、「小川駅周辺まちづくりビジョン」という高層タワーをシンボルとした現在の再開発のコンセプトがまとめられている。H26年には具体的な計画がつくられ都市計画決定に向けて準備が進められたものの事業費高騰のため採算が合わないため、計画の見直しとなったことがH26年9月22日の小平市議会のまちづくり特別検討委員会で報告されている。今回は事業費を抑えた形での検討がなされると見ていたが、実は大きく見直しされたわけではないことがわかる。
H26年計画(建設費高騰で見直し)と、H29年現計画の比較、建築物について
注)H29年計画については、2018/3/11に行われた小川駅西口地区第一種市街地再開発事業の再開発計画周辺説明会の配布資料をもとに作成
H26年計画(建設費高騰で見直し)とH29年現計画の比較、収支について
2014年計画:2014/9/22市議会まちづくり特別委員会の配付の資料および、2017年計画:2017/9/20市議会都市基盤整備特別委員会の配付の資料より作成
支出のうち建設費を比較すると、H26年の155.4億円の部分が、建設費高騰で計画見直しとなったが、H29年は150億円と、5.4億円、3.6%しか建設費がさがっていない。地下1階、地上30階から、地下1階、地上28階と、2階分のコストが減っているが、大きく見直した計画のようには見えない。
保留床処分金については、住宅数が、H26年が280戸に対して、H29年が220戸と、78.5%になっているが、保留床処分金の収入は、118.1億円から、108億円と91.4%と、H26年の見通しより、戸数が減り減少している。60戸(21%)減少しても収入は、10.1億円(8.5%)しか減少していないが、その理由はわからない。
市街地再開発事業を、組合施行で行うということは、小平市もデメリットとして認めている通り、時の社会経済状況に左右されやすい。最終的な判断は、デベロッパーである旭化成不動産レジデンス株式会社が事業として収支がとれるか否かの判断に大きく影響されることになる。今後を見守っていきたい。
小川駅西口再開発今後の行方は?
現小平市長は、H29年度の4月の「わたしたちのまちのつくり方」の行った市長選立候補予定者公開アンケートの小川駅西口についてどのように取り組みますか、という質問に対して、以下のように回答している。「再開発事業は、地区の権利者の皆様の合意が前提となります。現在、再開発準備組合では、市民参加で策定した「小川駅前周辺市区まちづくりビジョン」に基づき再開発事業に取り組んでおりますことから、市としましては実現に向けて最大限の支援を行ってまいります。なお、今後、再開発準備組合において、更なる工事費高騰などの社会的経済的状況により再開発事業の実施が困難となり、権利者の意欲が低下した場合などには、駅前広場と都市計画道路の整備を先行することもまちづくりの選択肢として考えられます。」現小平市長の回答からも、組合施行の再開発事業の難しさが伝わって来る。
地権者や周辺の住民は現在の再開発についてどのように考えているのだろうか?現在の再開発の計画については、2/3以上の地権者の中では合意されているものと思われるが、「小川駅前周辺市区まちづくりビジョン」は5年前につくられたが浸透しているとは言えない。現計画については、広く市民への説明や、情報公開が十分に行われていないため、どのような反応になるか予想はつかない。わたしたちのまちのつくり方のメンバーがある準備組合の方のお話しした際は、日常に必要な買い物が出来る場所がない、早く再開発を進めたい、中宿商店街や野火止用水の遊歩道にまで賑わいがつくれるような再開発にしたい、という思いを語っていた。一方で、「ぷち田舎」を標榜する小平市には高層マンションはふさわしくない、という意見も耳にする。
小川駅西口再開発について住民の関心が高まり、駅利用者のための駐輪場、建物と小川駅を2階で接続する自由通路の問題、中宿商店街の衰退する懸念などの課題について、住民から要望やアイディアが出されて、少しでも良い方向に向かう再開発になって欲しい。また現計画が都市計画決定に至らない場合は、現市長の公開アンケート回答にもあるように、長期間再開発が進まない現状も踏まえて、駅前広場と都市計画道路の整備を先行することも選択肢として検討すべきだろう。
写真は2018年1月初旬の写真。これまでも空き地であったが整備が始まった何が出来るかと思ったら、有料の駐輪場となった。小川駅西口は駐輪場だらけになっている。
小川駅西口階段を降りたところから西側を撮影。ロータリーがない。袋小路になっており、車によるお迎えや乗り入れができない構造になっている。駅前広場の整備を望む声は多い。
小川駅西口の南側の再開発予定地を、写真右のローソン100の南側から撮影。ローソン100が駅に近いスーパーマーケットと言える唯一のお店。小川駅は駅の周辺での日用品の買い物も不便という声がある。ローソン100の北側半分が開発予定地。高層タワービルの低層部には、スーパーマーケットが誘致されることになることが予想される。写真左にある電柱付近より奥(北側)が開発予定地
小川駅西口の北側で西側の再開発予定地にある駐車場。このあたりが、約1,000m2の市民広場になる予定
以上(文責 神尾直志)