講師:小泉秀樹さん(東京大学先端科学研究センター教授)参加者 22名
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経緯と講師紹介(神尾)
小泉先生には、当団体が発足するきっかけになった連続講座の中で、「道路か緑か 東久留米市の都市計画の例」というテーマでお話をしていただきました。先生は、2012年に見直された東久留米市都市計画マスタープラン市民検討会の委員長をつとめられて、市の意向を重視しながらも、市民の意見をまとめた実績があります。
現在、COVID-19で様々な形でオンライン化が進み、小平市も市議会で検討委員会が発足しスマートシティ化が避けられない中、個人情報を悪用されるのではないかという懸念もあります。また、リテラシー弱者に対する対応も必要で、今回、まちづくりの専門家であり、市民参加に力を入れておられる小泉先生に是非、スマートシティについてお話いただきたいと講師をお願いしました。
講師自己紹介
みなさんこんにちは。東大でまちづくりを教えています。今日は、市民参加や、市民の合意形成の観点からお話をします。この10年位、「共創のまちづくり」と言っているんですが、いろいろな地域で、市民や企業が様々な相互関係を構築しながら、地域を良くしていくことができないかという研究をしています。
ICTを活用したまちづくり、スマートシティに関連した取り組みについても、かなり前からいろいろな地域や団体と活動してきました。これらに関連した著作もあります。関心がある方は事例についてネット検索、あるいは本を読んでみてください。
ICTを活用したまちづくり
インターネットは、もともとは大学で使われていた技術だったのが、日本では、1990年代の中頃から民間が利用するようになり、プロバイダーがサービスを提供するようになってきた。その頃、インターネットを利用すると市民参加がもっと新しい形でできるのではないかと考えて開発したのが「Kakiko Map」。
街歩きをした人が自由に地図に好きなことを書き込めるようになっていて、そこに写真も載せられ、誰かのコメントに対してさらに追加のコメントを次々書き込める掲示板的な機能があり、まちづくりの在り方等の議論が広くできるようになっている。今はグーグルマップに、マイmap機能があって、仲間と情報を共有することができるようになってきているが、まだそういうツールが普及していない時代だった。実際にこのシステムを利用して、まちづくりを行っているようなNPO等が情報を共有したりしていました。
また、例えば、三鷹市では、2003年位から数年かけて、市の基本構想のもとに作られる基本計画の改定をこのシステムを使って、新しい市民参加の実践として行われた。
具体的には、「Kakiko Map」と、交わされている意見交換を文字起こししてテキスト化し可視化することで議論展開や全体の意見の流れがわかるようなシステムを併用し、市民参加を行った。
参加した市民が街歩きをして帰ってきたら地図上に写真とコメントが観れるように整理されていて、それをインターネット上で公開し、さらに参加できなかった人も、あとから書き込みができる。
結果的に出された意見は基本計画に反映されたが、運営コストや、人力の手間の問題、従来の方法ではなくインターネット上で寄せられた意見をどう調整するのか計画策定上の位置づけの問題等、いくつかの課題もあった。先端的な取り組みだったが、実験的に一度やっておしまいになった。
ちなみに、三鷹市は当時、このような取り組みをしたり、高速回線(当時はISDN)をいち早く取り入れたり、高齢者向けのインターネット教室をやっているNPO法人「シニアSOHO普及サロン」という団体が活動していたりと、ICT化が世界でもっとも一番進んだ自治体の一つに選ばれている。
スマートシティとは何か
e-governmentを自治体レベルですすめる(1.0)
1つは、初めに紹介したような三鷹市等での取り組み。オンサイトでやっていた行政サービスや市民参加の取り組みをインターネットを介してやっていこうという「eガバメント」的な手法がうまく進んでいるところをスマートシティと呼ぶという考え方。インターネットの普及とともに現れ、eガバメントという言葉が流行った時代。インターネットで行政サービスを置き換えていくというやり方。
Smart Grid エネルギーマネージメントの流れ(2.0)
2つ目は、2000年代後半から3・11震災の前ぐらいに、エネルギーマネジメントということで、アメリカとかでスマートグリッドという言葉が使われていた。高効率で、エネルギーをネットワークしてマネジメントするシステムをで導入しようとする試み。
日本では、スマートグリッドではなく、スマートコミュニティ、スマートシティと呼んで、このタイプは、日本は比較的早く、各地で先進的な取り組みが行われていた。
都市自治体による官民連携パートナーシップ、IoT活用の流れ(3.0)
3つ目は、今、これが注目されていて、スマートシティは、この意味で使われることが多い。1番目と似ているが、IoT(Internet of Thingsの略)という言葉を耳にすることがあると思う。今、冷蔵庫とかテレビとか家電製品の多くがインターネットにつながっていて、いつ冷蔵庫を開けたか、テレビで何を見ているか等、人の行動や活動が、情報として取れる可能性が出てきた。
それによって新しいサービスを提供し、生活の質を向上させることができると、企業も政府も考えている。このタイプのスマート化については、すでにGAFAと言われる、大手のサービス会社が、フェイスブックのやり取りや、Googleの検索内容の情報を集めたり、また、スマホで使っているアプリから位置情報を得て、混雑情報に使っていたりする。それを企業に任せるのではなく、その都市毎に、人々が必要なサービスをデザインして実践していくことができないかという取り組みと、考えている。
日本は遅れて、2016,7年位から本格的に気運が高まってきたが、アメリカでは2012年、ヨーロッパでは2010年位から、重要な政策的課題と位置付け連邦政府やEU政府が、都市にお金を出してスマートシティを実践的に進めていくようになった。
「ライフシフト」人生100年時代想定したコミュニティを発展させる流れ(4.0)
4番目のタイプはまだ少ないがこの流れがあることがわかってきた。「ライトシフト」という本を読まれたことがあるかもしれないが、人生100年生きることを想定して人生を何段階かに分け、その時々必要な知識を身に付けながら時代に適応していく必要があるという考え。
本の著者のリンダ・グラットンとアンドリュー・スコットがその本の中で面白いことを言っている。シアトル、ボストン、サンフランシスコとか、人口150万から300万の、環境が魅力的な都市がある。日本だと福岡、仙台、札幌位の都市か。通勤時間が短く、少し都心を離れればきれいな田園風景が広がっていて、なおかつ都市としての便利さもある。
そういうところ、例えばシアトルから、AmazonやMicrosoftといった企業が生まれ有力な大学もある。多彩な人材が集まりコミュニティを形成し、その中で生活を楽しんでいる、とういうようなのをスマートシティと言っている。これを発展させると、本当の意味でスマートな都市ということが考えられるのではないかと思う。
海外の事例の紹介
アメリカのスマートシティチャレンジの例
東海岸、西海岸の都市、保守的ではない都市が手をあげて、スマートシティのプログラムを実施している。
オハイヨのコロンバスの例
電気自動車を普及させ、そのためのインフラを整備させる。Wi-Fiで情報を取り、商業地のサービスに活かしていくとか、物流、観光に活かすことを考えている。
ニューヨーク
オープンデータが進んでいて、1600を超える情報が市役所の情報としてオープンになっている。例えば住宅配置や規模などがわかるようになっている。データをオープン化することで、新しくサービスを提供する人に活用してもらう。市長の直下にデータを分析する専門部局を作って、分析結果を政策に活かしている。
スマートシティを進めたい企業の間で、スマートポール(電柱)という言葉が流行っている。スマートホンは携帯をスマート化しようということだが、電柱をスマート化しようとしていること。
日本では、5Gを普及しようとしているが、5Gの中継塔しか役割がないものを建てるのでは魅力的ではない。
ニューヨークでは、民間の企業を利用して、ポール端末をバス停とか人が集まる場所に置いて、そこでいろいろな広告が見ることができ、企業からも広告料を取る。Wi-Fiを使うことが出来て、充電ができる設備などICT系のサービスもスマートポールにまとめ、利用した人の年齢、性別等の情報や人の動きを把握し、年齢、性別、人の流れに応じたサービスを考え、その世代が関心をもつ広告を打つことが考えられている。
スマートシティの論点・問題点
今、企業が日本の各地でスマートシティを実践しようとしているがうまく進んでいない場合もある。情報系の専門家や企業も参加して都市計画学会がスマートシティの課題を検討している。パナソニック、日立などITベンダーといわれる企業にも参加いただいている。スマートシティを実践したい企業の立場からの目線と、市民生活を向上させ、いい「まち」を作りたいというまちづくりの専門家の立場からの両面から検討している。
都市の将来像の問題
タンジブル(物理的な都市の空間を意味している)が、スマート化してく上で影響を受けるのではないかと、まちづくりの専門家は危惧している。スマート化を進める際に、タンジブルの将来のことが議論されない場合もあり、都市像を共有することが大事だと考えている。
自動車が普及する以前、まちは船と鉄道を利用する前提で発展した。しかし、アメリカでは、戦前までに急速に自動車が普及したことによって、都市の姿が変わった。鉄道より自動車のための道路網が大事になり鉄道を撤去してしまったまちもある。
近年では、ポートランドやシアトルなどの先進都市は、リバブル(住みやすい)なまちづくりを目指して、鉄道の路線を引き直したりしている。車の利用を減らしたいという意図がある。また、高速道路を地下化するボストンの例などもある。
しかし、アメリカの都市の多くはいまも車社会のままとなっている。私もアメリカで暮らしていたことがあるが、1時間で走れる距離が日本の2倍以上といった走りやすい都市も多い。自動車を持っている人には便利な社会。しかし、そうなるとCO2排出の問題も深刻。自動車をもっていない人との格差の問題もある。車がないと通勤出来ないなど、社会的排除が生じる理由の一つになっている。
東京は車がなくても移動できる。公共交通、自転車、徒歩、カーシェアで用が済んでしまうが、日本の地方都市でも、車社会、一家に三台などの状況になっている。高齢化が進むことで同じようなことがおきている場合もあるかもしれない。
自動運転などの普及で都市が変わってしまうことが予想される。
米国の車社会でCO2排出、格差などの問題が起きたように、自動運転やスマート化で都市の姿が変わる場合に、将来起きることをまちづくりの専門家が予見して、対処していこうと考えている。
市民参加・ガバナンスの問題
市民参加がうまくいかないとプロジェクトが進んでいかないことがわかってきた。
スマート化のために収集した情報を誰が責任をもって管理するのかという運営体制の問題(ガバナンスの問題)がある。
マネタイズ、ビジネスモデルの問題
企業側からすると、情報集めてサービスを提供しても、どこでお金を儲けられるのかが見えていない。広告料はしくみの一つだが、渋谷とか丸の内では(先のニューヨークでの例のように)広告料をとれるかもしれない。小平市では、広告料は取れないだろう。採算が取れないところで、どうやって誰がスマート化を進められるのかという問題もある。
トロントのウォーターフロントの開発のスマートシティが頓挫した事例
グーグルの親会社アルファベット傘下のSidewalk Labs(サイドウォーク・ラボ)という、まちづくりの会社が、再開発を市や州政府と一緒に進めるという話があった。リアルな空間を豊かにするだけでなく、スマート化を進めることで、都市に新しいサービスを実装できるのではないかと考えた。プラン自体はそう悪くなかったと思う。
2017年から2019年に頻繁に市民との意見交換を行ったが、市民参加の理論で評価してみるとグーグルのやっていることは、形式的な参加に留まっていたように思う。データの取り扱いも論点となった。
グーグルは市民の情報を一旦取った上で匿名化して保管する方式を主張していた。独立機関が管理し、かつセキュリティも万全にすることから問題ないと主張したが、そもそもどのデータを取得していいかは市民に権限があると言う市民側と対立があった。
また、先住民も住み、多様な文化が存在するトロントの多様性に対応するという姿勢が十分ではなかった、このことが極めて重要なイシューであったという。
このプロジェクトは隘路にはまりかけていたが、コロナが発生したこともあり、会社は撤退を表明した。
市民参加の段階
市民参加には段階性があり、大きく分けて3段階、小さく分けると8段階あって、段階性を高めていく必要があるという考えがある。
- 非参加:行政は参加と言っても、行政が操作しようとして、限られた情報しか提供してない場合は参加とは言えない。
- 形式的な参加:情報はある程度開示するが、自分達に都合の意見はプランに入れるが、都合の悪い意見は扱いを明示しない。上記のGoogleの態度は、形式的な参加と言える。
- 本当の参加:行政(トロントのような事例場合は企業の場合もある)と市民と対等な関係。計画策定にあたって市民側のいい提案は取り入れ、行政(企業)の方針とぶつかるところでも、必要であれば取り入れる。
さらにもっと高いレベルの参加は、市民の方が部分的に一定の権限を持っている。提案できる制度がある。参加の最終段階は市民が統治する。これらが本当の(権力としての)参加と言われている。
うまくいった加古川市の見守りカメラ設置事例
加古川市は、子どもが巻き込まれる事件が続けて起きたことで、市から子育て層が流出する事態となり、市は子どもの安全が重要だという認識を持っていた。総務省の補助金を使うことで、子ども達が安全に過ごせる街を実現する見守りシステムの構築を考えた。
トップダウンではなく、地域ごとに市民との意見交換会を開催し、必要性の説明と意見交換を行った。アンケートも実施し、広報を丁寧に行いながら、見守りカメラを設置する場所も市民の意見を聞きながら調整して決めていった。
さらに市議会でカメラを設置する目的を限定し、取得した情報の活用をルール化し、市民が納得できるような条例整備を行い実施に至った。日本でスマート化する時のお手本になると思う。
デシジム
加古川市は、そのあと、デシディム(decidim)という、インターネット上で市の政策を議論できる仕組みを取り入れた。decidimは、議論して意思決定していくためのツールで、スマートシティビジョンを作成するにあたり、インターネット上で議論を組み合わせてできるようにした。
decidimは、計画や戦略の立案もできれば、今、参加型予算編成(Participatory Budgeting)と言って、市の予算を市民が参加しながら決めていくプログラムが世界中で流行っているが、そういうことも可能になる。
decidimは、バルセロナで使われ始めたツールで、バルセロナでは、ワークショップをオンサイトでやって、出た意見をdecidimのインターネット上のプラットフォームに持ってきて、decidimでも議論をしている。何万人という市民がスマホから意見を出して、市の政策のもとになっている。
加古川市もdecidimによる市民意見の反映を模索し始めた。
スマート化の一番重要なプロジェクトの一つは、市民がどうやって都市政策に積極的に参加できるのかということだと考えていて、市民参加のためのツール開発に力を入れることが重要。
リビングラボ
リビングラボという仕組みも面白い。企業だけでなく、市民も参加し、いろいろな主体が協力して、市民にとって何が必要なのかを明らかにしながら、サービスの提案をしていき、それらをらせん状に展開していくことで、新しいサービス提供をしていく取り組み。
地域の人と話し合いながら、スマートシティ、新しい地域をデザインしていくというアプローチが必要で、スマートシティを進めるにはそういうプロセスを踏まないとうまくいかないのではないかと思う。
COVID-19で進んだこと
MIRO(※)というワークショップツール
みなさんもZoom等普通に使われるようになったのではと思うが、大学での講義、特に演習等は地図を囲んでディスカッションをしたりしていて、インターネット上でサービスを探したところ、地図などを土台にして付箋を貼れるMiroというサービスをみつけた。
これまでは、密に空間と時間を共有して議論しないと演習できないと思っていたが、Miroを使うことで、効率良くスマートにすることができた。手書きした付箋をパソコンでテキスト化する手間もなく、あとから編集が可能で、途中で抜けてもあとから作業の状況をインターネット上で確認することができ、効率がよく、とてもクオリティの高い成果がでてきた。
※ スタッフ注記 第一回の講義の4本目の動画で照井先生が詳しく紹介
リモートワーク
バーチャルなシステムが発達してくると、都市空間に大きな影響を与え、コロナ禍の生活の中で顕著になってきた。都市がどう変わるのか、コロナの問題をきっかけにして普及したICTのテクノロジーの活用がインパクトを与えつつある。
例えば、リモートワークが進み、クリエイティブな仕事もオフィスに出向かないで、ある程度できてしまうことが分かってしまった。規格の良いオフィスは、空室になることはまずないが、その中での働き方や利用の仕方は変わってゆくと思う。また、ベンチャー企業がオフィスを引き上げてリモートで仕事をするなどの動向もあり、中小のオフィス建築が持ち得る「場所」としての意味については、再考する必要があるだろう。
まとめ
- 日本の政府は、「Society5.0」を進めようとしている。その際、誰のための何のための「Society5.0」であり、スマート化なのかを考えることが必要になる。
- 世界中で、ビッグチャンスと捉え、競っている。地域に暮らしている人々の立場としては、スマートシティ化は、市民の生活の価値にどう根差して、どう進めるのかを基本的原理であり、この点を忘れないようにしたい。
- ICTが好きな人は、新しいことにどんどんチャレンジしたい。だからと言って生活が大きく劇的に変化して、自動車の普及の問題のように、環境的に問題があったり、社会的排除につながるような都市にしてはいけない。そういうことが起こらないように注意をしなければならない。
- 「リビングラボ」というようなアプローチは大事。市民や企業が、何が大事なのかを発見しながら、何に価値を置くのかを共有しながら、新しいサービルを作っていくとかスマート化を進めていくというプロセスが大事なのではないか。
- AIが様々な意思決定をすることがあり得る。例えば、アメリカでは簡単な法令の判例照合をすでにAIがやっている。都市計画、まちづくり、自治体政策の面に関して言えば、政策データを読ませることで、AIが最良の政策を提案するということがあり得るかもしれないが、そういう方向に技術を進化・進展させるというのではなく、市民がより参加しやすいようなAIやIoTの活用が重要ではないかと考えている。
質疑応答
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スマートシティ化がすすむなかでセキュリティの専門家がいないと基本的人権の侵害がおこることがある。どのような対策があるか?
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EUではデータは個人の所有物、その人がもっているという考え方になっている(GDPR EU一般データ保護規則)。個人が引き上げることも出来る。例えばGoogleに提供をしている情報を引き上げて、別の信頼できる会社に渡すという選択も出来る。日本でもデータ所有権を明確にするという流れができつつある。データが流出しないようにどう管理するかは別の問題として考えないといけない。
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個人のデータを使わせたくない人、情報を提供して積極的にサービス利用したい人、或いはそもそもデジタル機器をつかえない人と、それぞれの個人の意見はかみ合わない。個人情報を提供したくない人が、一方、個人情報を提供した集団データを使うことは、不公平ではないかと考えられるがいかが?
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個人データ利活用の主権が誰にあるかを整理すべき。利用されたくない人の個人情報が利用されないことについては法整備で守られるべき。利用しても良い人の情報だけが流通する仕組みが必要。データ主権の考え方を法整備することが大事である。本来は個人ひとりひとりのデータをどう守るか、という視点が重要。
EUが個人データを守る姿勢なのでEUにならうのが基本的には良いと考える。逆に自分の個人データを活用してもらいたいという人もいる。医療の世界で、自分の医療情報をサンプルとして積極的に使ってもらいたい人もいる。積極的に参加したい人は参加できるようにすべき。治験に参加するのと同じ。ルールがはっきりしていれば二者が対立するようなことは起こらない。
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監視カメラでは、子供の安全を優先に考える人、個人情報を監視されなくないという人がいる。監視カメラをつけるかつけないか、二者択一を迫られる場合はどうすればよいか?
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単純化すると二者択一ですが、実はそうではない。どこにどのカメラをつけるか、カメラの数の問題もある、監視の仕方もある、何時から何時までカメラを作動させるか、録画データの保管の仕方をどうするか、など。二者択一ではなくて、さまざまなポイントがあり、どこで合意できるかということになる。多様な選択肢を考えるのが合意形成における重要なポイントとなる。
さもなければ、監視カメラがついている「まち」と、ついていない「まち」の二者にわかれてしまう。
また、「まち」はひとつしかない。多くの人が合意できる、納得できる方が良いにきまっているので、どうやって到達できるかということが大事。選択肢と、リソース(経済的資源、社会的資源)がたくさんあった方がよい。
ある世代でものごとを決めてしまって、後から入ってきた世代に、それは問題ではないかと指摘されることもある。人が入れ替わると整備した都市の評価が変わることがある。監視カメラは外せばよいが都市は一度つくったら何十年先まで変えられない。
今いない人たちの価値観を代弁することや、対立する意見をたくさん集めることから都市づくりの方向の議論を始める。意見を出し尽くしてから、対立する意見を乗り越えていくと次のステップに行ける。多様な選択肢をどれだけつくれるかと、どうすれば効率よくすすめられるかを考える。
参加のまちづくりで、A案、B案、どちらが良いか、という投票は最後の最後にしないと誤った選択をしてしまう。専門家の知識、例えばセキュリティの専門家の意見がなければ市民も正しい選択が出来ない。そのほか、地域の特性やその地域の文化的価値を知っている人など、多様な価値観を持っている人がいることが大事。その上でどういう合意できるのかみんなで目指すかが最初のステップ。
監視カメラはつけない選択肢もある。加古川市では、子供が巻き込まれた事件があり深刻な問題だったため、監視カメラをつける選択になったと思う。
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スマートシティは新しく造成したまちで導入していくというイメージがありますが、例えば小平市の学園西町のような既存の都市の中でスマートシティは出来るか?
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再開発を実施するよう場所で、スマートシティ導入が先行している。加古川の例は市内全域に市民の合意のもとで監視カメラを設置している。地区レベルで合意して地区レベルで導入していくことも可能。公民館のような既存施設を中心にスマート化を出来るところからすすめるという考え方もある。
監視カメラは、加古川の文脈があったから出来たのであり、その街に必要なことを考えて入れるのが大事。必要なものを入れることがある地区の中で合意できれば導入可能ということになる。
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加古川市の監視カメラの件は、市民の合意ができたのは素晴らしい例だと思う。その後、新たな意見や、状況の変化で、設置しなおすなどの動きはあるのか?
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カメラ設置の効果をデータ分析を通じて行うなどの取り組みはまだ行われていないようであるが今後行うことで、他の自治体の参考にもなってゆくと思う。
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第一回の講義でも紹介があったMIROは参加しやすく小平市でも導入してもらいたいと思った。COVID-19が出たタイミングで学校が休校になり、オンライン授業がはじまったが端末をもっていない子供たちのケアがおくれて教育に格差が出た。先ほどアメリカの車をもっている人と持っていない人の格差の話がありましたが、デジタル化に参加できない人の問題はどうすればよいのか?
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デジタルデバイド(格差)という問題。デジタルによってインクルーシブ(包容)になる可能性もあるし、(デジタルを使えない人がいると)エクスクルーシブ(排除)することもあり得る。遠隔講義、設備が整っていない子供に、直接回線にアクセスできる4G端末を配布している自治体があり、教育委員会に入っている先生が、各学校で重要な講義を教科ごとに録画して、各家庭で子供たちが見て学習できるようにした。
そして、デジタルツールを使うことでインクルーシブになることもある。学生らのインターネットの利用環境を把握した上で、感染リスクの高いご家族がいる学生や遠隔地からの通学の学生など、学生の希望に応じて、リアルか、リモートかを選択できるようにした(ハイフレックス講義)。
デジタルツールがあったことから出来た事、ツールがなければ通学(リアル受講)の無理強いをするか、講義から排除するかの選択になったと思う。デジタルツールをどう使うのかが重要。
感想(馬場)
スマートシティといっても、いろいろな形があることがわかりました。個人的には、スマートシティの4つ目のタイプ、に注目します。人間性と利便性、自然とテクノロジーが融和した社会に惹かれました。
技術の進歩を追い求めてきた人類の歴史を見ても、得た技術を使わないということはできない、後戻りはできないと思います。最終的に技術を使いこなすのは人。感性と理性、そして良心をもちつつ、使いこなしていくことが必要と思います。
小泉先生の慎重に、前向きにICTを活用しながら市民参加を進めていく姿勢に共感を感じました。
「参加のはしご」という考え方を、はじめて知りました。小平市と市民の関係はどの段階かと考えてみると、トロントでのGoogle子会社と同じ「形式的な参加」かなと。それをもっと上の段階にまで高められるか、私たちに問われていると思いました。
まちづくりの主人公は市民です。主体性を持ち、どのようなまちで暮らしたいのか決定していく力を付けていかなければならないと思います。
また、今回学んだインターネット上での市民参加も、小平で進めていくことができたらと思います。
以上(神尾、馬場)